序盤戦8





 つぐみは拓磨を正面から見据え、相手の一挙一動に気を配らせる。話しかけもせず

に発砲してきた事から考えると、彼は間違いなくやる気になった側の人間だ。

 拓磨は張り詰めた顔で銃を構えたまま、つぐみは身構えたまま動こうとしない。そし

てその間にも、つぐみはどんな行動をとるべきか頭を回していた。

 この状況で一番安全な選択肢としては、振り向き様一気に逃げ出すというものだろ

う。遠距離戦で無類の強さを発揮する銃相手に無傷ですむかどうかは不安だが、銃

を取り扱った事の無いただの中学生がそれほどの命中率を誇るとは思えない。恐らく、

高確率で逃げ切れるだろう。

 つぐみは視線を動かし、後ろに倒れている沙耶華を見た。腹を押さえて倒れたまま、

動く気配が無い。まさか、死――。

「ううっ……」

 顔を苦痛に歪め、掠れるような声を漏らす。沙耶華の生死を確認し、つぐみは口元

をほころばせる。

 だが、まだ安心はできない。一命こそ取り留めているものの、彼女の傷は間違いなく

重傷――もしくはそれ以上だ。早く治療を施さないと、本当に手遅れになってしまう。

 

 さて、どうしますかね。

 

 つぐみの額に冷や汗が浮かぶ。この場から逃げる事は簡単だが、そうなると沙耶華

を見捨ててしまうことになる。そうなれば間違いなく、彼女は拓磨に殺されるだろう。

 このゲームにおいての勝者は一人。それは分かりきっている事だし、つぐみもそれを

自覚している。

 だが、それをいざ行動に移すというのは勇気のいることだった。目の前で親しい友人

が殺されそうになっているのを放っておくというのは、つぐみじゃなくてもそう簡単に選べ

る事ではない。

 自分の支給武器に賭けてみるのもアリだが、それよりも早く撃たれてしまうかもしれな

い。第一武器がハズレだったらどうすればいいのか。

 

「逃げて……」

 今にも消え入りそうなか細い声が、つぐみを現実に引き戻す。

「逃げて、つぐみ……私のことはいいから……逃げて……」

 口の端から血を流しながら、沙耶華は懸命に己の意思を伝える。

「沙耶華……」

「私、もうダメかもしんないからさ……だから、あんたは逃げて。撃たれる前に……早く」

 溢れ出る感情を握り潰すかのように、力いっぱい右拳を握る。心苦しいが、この場は

沙耶華の申し出を受け入れざるを得ない。

「わかった。だけどあんた、簡単に死んだりしたらしょうちしないからね」

「がん……ばってみる」

 

 拓磨の銃がぴくっと動いた瞬間、つぐみは素早く振り返り駆け出していった。背後から

先程と同じ破裂音が聞こえてきたが、いちいち構っていられなかった。学年でもトップ

クラスの運動能力をいかんなく発揮し、無駄の無い動きで走り続ける。拓磨も追ってきて

いるようだが、元々の運動能力に差がありすぎるせいかその距離は開く一方だった。

 心の中で沙耶華に謝り続けながら、つぐみは島の中へその姿を消していった。

 

 【残り37人」

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