中盤戦:44





 はるか遠くに聞こえる銃撃戦の音が止み、草や梢が風に揺られる音だけが聞こえていた。

 音がした方に顔を向けながら、高橋浩介(男子10番)はごくっと息を呑んだ。自分は銃器

に関して素人だが、少なくても三――いや、四種類の銃声がした。銃声らしき音は今まで何

度も聞こえてきたが、それは極めて短い間での話だ。今回の銃声はプログラムが行われて

から一番長く続いていた。それも多種類の銃声がしたことから、生き残っているメンバーで

銃撃戦が行われた可能性が高い。

 

「ねえ……さっきの音って銃声かな」

 隣に座っている霧生玲子(女子6番)が不安げに聞いてきた。

「たぶんね」

「じゃあまた――」

「それは分からないよ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 口ではこう言ったが、本心ではきっと誰か死んでしまったのだろうと思っていた。それを口

にすれば玲子はまた悲しむだろう。彼女を下手に悲しませるような真似はしたくなかった。

 

 二人は今、B−7エリアにある池のほとりに座っている。玲子の疲労が思いのほか溜まっ

ていたことと、午前零時の――つまり第二回目の定時放送が迫っていることもあったので、

放送が終わるまではどこかで休んでおくことにしたのだ。

 月の光で淡く輝いている水面に目を向けていると、どこからか『ブツッ』という機械音が聞

こえてきた。

 

『あー、あー、担当官の村崎です。午前零時になったので放送をするよ。それじゃあこの六

時間で死んだ生徒から。まず女子16番、吉田葵。男子9番、鈴木透。男子4番、今井俊介。

女子3番、井上凛。女子12番、長月美智子。男子15番、宗像恭治。男子6番、君島彰浩。

死んだ生徒は以上』

 

 吉田、鈴木、今井……名前を呼ばれた生徒にチェックを付けていく。今の放送で分かった

死者は七人。前回の放送と合わせると、すでに十三人が死んでいることになる。見知った顔

が十三人、この島のどこかで無残に転がっているのだ。冗談にしてはタチが悪すぎる。

 

『続いて禁止エリア。一度しか言わないからちゃんと聞いときな。一時からC−7、三時からD

−2、五時からF−4』

 C−7は今自分たちがいるエリアの丁度真下、D−2は島の北西部、F−4は公民館のある

住宅地の一部分だ。自分たちがいるB−7エリアは禁止エリアに入っていないが、一時間後

にすぐ側のC−7エリアが禁止エリアになるためここから離れたほうがいいかもしれない。

『なかなか良いペースで進んでいるねぇ。疲れが出てきている生徒もいるだろうけどこの調子

で頑張りな。それじゃ』

 マイクの切れる音と共に村崎の声が途切れ、再び草の揺れる音が聞こえてきた。

 

「もう十三人も死んじゃったんだ……」

 玲子が悲痛そうな声で呟いた。

「やる気の奴がいるなんて思いたくないけど……この状況を見ているとそうも言っていられな

いね。死んだ十三人全員が自殺なんかするはずがない。やる気になっている奴が、まだ生き

ている誰かの中にいるんだ」

 死人が出る以上、そいつを殺した何者かも必ず存在する。クラスメイトをそんな風に思いた

くないが、そうしないと自分の命が危ないのだ。自分だけならまだいい。下手をしたら玲子を

危ない目に遭わせてしまう。それだけはなんとしても避けなければ。

 

「浩介、これからどうするのよ」

「とりあえずここから離れて、住宅地の方へ移動してみよう。歩き回るのは危険が伴うけど、

仲間を探すためには多少のリスクを覚悟しなきゃいけないと思うんだ」

「そうね。それにもうすぐ隣が禁止エリアになるし、ここからは離れた方がいいわ」

 チェックを入れた地図を広げ、二人はこの先の行動指針について話し合いを始めた。そし

てしばらく話し合った結果、島の南西部を中心に仲間を探すことになった。

 

 島の南西部には住宅地になっているので、家の中に隠れていたり物資を調達にくる人間が

多いと推測したのだ。それと二人の共通した意見で、吉川秋紀(男子19番)黒崎刹那(女子

7番)に会いたいというものがある。住宅地の方へ向かえば二人に出会えるのではないかと

考え、浩介と玲子は次の目的地を住宅地に決定した。

 

 人が多く集まっていそうな場所に行くということは、それだけやる気の生徒と出会う確立が上

がるということでもある。それはプログラムをやっている以上仕方のないことだが、やる気の

奴と出会ってちゃんと戦えるのだろうか。

 それが気掛かりだったが、浩介は覚悟を決めていた。自分の身に何が起ころうとも、玲子

だけは守りきってみせると。

 例えそれが、自分を犠牲にしなければいけない場面でも。

 

 浩介はズボンの脇に差し込んでおいたFN ファイブセブンを握り締めた。拳銃なんて撃った

ことはおろか、実物を前にするのも始めてである。ちゃんと撃てるかどうか不安だったが、そ

れはあまり考えないことにした。考えれば考えるほど不安が大きくなっていく気がしたので。

 ファイブセブンにちゃんと弾が込められていることを確認し、デイパックを肩に提げて立ち上

がった。地図とコンパスを照らし合わせ、二人は住宅地が広がる方向に向け歩き出した。

 

 森の中を進んでいる途中、浩介は後ろをついてくる玲子にあることを話した。

「玲子、僕ちょっと考えたんだけど、仲間を探しているからって誰でも彼でも仲間にするのは

危険だと思うんだ」

「どうしてよ。こんな状況なんだから、みんなを信じて力を合わせなくちゃいけないじゃない」

「うん、僕もそれは正しいと思う。でも僕たちはみんなが何を考えているのか全然分からない

じゃないか。玲子や秋紀たちみたいに付き合いの長い友達は信じられるけど、他のみんなは

そうもいかないよ。もしかしたらやる気になっているかもしれない。だから仲間を探すのは慎

重にやらないとダメだと思う」

 

 浩介の言ったことはもっともだった。自分たちはクラスメイトのことを分かったように言ってい

たけど、半日一緒にいるだけでその人物の全てを知ることはできない。浩介の言うように、他

のクラスメイトが本当は何を考えているかなんて分からないのだ。

「……そうね。悔しいけどあんたの言うとおりだわ」

「うん。だから仲間にするのは、本当に信用できそうな人にしたほうがいいと思う。会長とか、

和樹とか、あとは朝倉さんや木村さん」

 浩介は生き残っているメンバーの中で、信頼度が高い生徒の名前を挙げた。

 

「ねえ、浩介」

「なに?」

「私、最低でも秋紀と刹那に会いたいわ。そしてみんな一緒にここから脱出するの。絶対に」

 固い意志を秘めた玲子の瞳をじっと見据え、浩介は力強く頷いた。

「そうだね。絶対にみんな一緒に、ここから脱出しよう」

 秋紀と刹那が今どこにいて何をしているのか。二人はそれを知らなかったし、知ることがで

きるはずもなかった。

 それはある意味、幸せなことだった。

 

【残り25人】

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