序盤戦4





 「おや、もう起きているようだね。待つ手間が省けて助かったよ」

  女性は教室に入ってくると教壇に立ち、あたかも教師のような佇まいで生徒ひとり

 ひとりの顔を眺めていく。

  その女性はこの場に似つかわしくない、紫色の着物を着ていた。髪は肩にかかる

 くらいの長さで、花の髪飾りをさしていた。どこかのバーにでもいそうな妖艶な雰囲気

 を纏っている。

 「いきなりですまないけど、単刀直入に話すよ。あんたたちは今年度のプログラム対象

 クラスに選ばれました。つまり――今から殺し合いをしてもらうってわけ」

  嘘偽りを感じさせない、不思議な厚みを持った声。先程のまでの喧騒が嘘のように、

 教室の中を静寂の波紋が広がっていった。

 「じゃあまず自己紹介からしようか。お互いの名前を知らないと話にならないからね」

  女性は黒板の方を向き、チョークを手にとって『村崎薫』という字を書いた。

 「あたしの名前は村崎薫。あんたたちの新しい担任だ。短い間だけど、よろしく頼むよ」

  突然、ガタンという音が教室中に響き渡った。

 

 

 「ねえ、ちゃんと分かるように説明してくれない? いきなり新しい担任だとか言われたっ

 て、私たちには何がなんだか分からないわ」

  立ち上がったのはつぐみだった。クラスメイト全員の気持ちを代弁するかのような彼女

 の発言に教室中の視線が集中する。

 「確かにあんたの言うとおりだね。訳の分からないうちに連れてこられて話を進められて

 も、事態を上手く呑み込めない。そういう事だろう?」

  相手の心を見透かしたような、妖しい光が宿る瞳。つぐみは言い返す事ができず、ただ

 黙って頷くしかなかった。

 「黙ってあたしの話を聞いていられるんなら、あんたの質問に答えてあげるよ」

  つぐみは再び頷いた。黙って話を聞くという条件さえ守れば、自分たちの質問に答えて

 くれるというのだ。それほど難しい条件ではないし、ここは承諾するのが得策だろう。

  だからつぐみは、今一番知りたい事を口にした。

 「先生は……高峰先生はどうしたんですか?」

  その質問に、村崎と名乗った女の顔が強張る。ほんの一瞬だけだったし、多くの者は彼

 女の表情に気を回す余裕が無かっただろう。本来ならば気づかないその変化を見逃さな

 かった生徒が二人、この教室内にいた。

  ひとりは浅川悠介。そしてもうひとりが黒崎刹那である。

  わずかな表情の変化も見逃さなかった二人であったが、さすがにそれの意味するところ

 を理解するには至らなかったようだ。二人とも、村崎の口から発せられる言葉に神経を集

 中させている。

 「……死んだよ」

  恐ろしく短く、全てを表している言葉。無駄な説明はなく、結果だけがそこにある。

  だからこそつぐみは。3組の生徒たちは、その言葉の意味をすぐに受け入れる事ができ

 なかった。

 「あんたたちの担任、高峰誠治先生は死んだ。あたしたち政府に歯向かってね」

 【残り38人】

戻る  トップ  進む

                     

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送