序盤戦11





 玄関を目指し、悠介は校舎の中を軽快に駆けて行く。肩から提げたデイパックを開き、

中に入っている武器を探していた。銃声が聞こえてきた以上、待ち伏せされている可能

性も視野に入れておいたほうがいいだろうと踏んだのだ。

 デイパックの中にはパンや水などが入っていたが、その中でも一際異彩を放っている

物があった。黒い金属質の物質。すなわち――。

「銃か……」

 そっと握り、慎重に持ち上げてみる。硬く冷たい感触が手の平に伝わった。

 悠介に支給された武器は、ベレッタM1934と言う名の中型自動拳銃だった。ベレッタ

のずしりとした重さは、本物の銃を持っているんだという現実を改めて認識させてくれる。

 ――ああ、これは本当にプログラムなんだ。

 悠介の中に、そんな考えが浮かんだ。今更何を、と思われるかもしれないが、続けざま

に起きる事があまりに現実離れしていて現状を疑っている部分が悠介にもあった。

 その疑念が今、銃を手に取ったことによって完全に吹き飛んだ。これは現実なんだ。

とても、とても残酷な現実。認めるしかない。受け入れるしかない。やるしか――ない。

 

 

 校舎の外に出た悠介は、とりあえず住宅地を目指す事にした。いろいろと役立つ道具

があるかもしれないし、同じことを考えている奴や家に隠れている奴がいるかもしれない

と思ったからだ。

 銃の説明を簡単に読み、マガジンを装填する。それをベルトにさし込み、いつでも取り

出せるようにしておいた。

 校門の陰に身を隠し、辺りに人影が無いか確認する。少し慎重すぎるかもしれないが、

これは一度きりの失敗が死に繋がるプログラムだ。用心するにこしたことはないだろう。

「ん……?」

 そして悠介は気づいた。校門から出てすぐの所に、見慣れたブレザーの制服を着た人

間が倒れていることに。

「あれは――」

 怪我をして倒れているのだろうか。駆け寄って様子をみた瞬間、悠介の目が驚愕に見

開かれた。

 目の前で倒れているのは、額を撃ち抜かれた後藤拓磨(男子7番)の死体だった。頭の

下には拓磨の血が広がっており、光の消えた瞳は虚空を彷徨っている。

 予期せぬ死体の出現に悠介は戸惑ったが、無理矢理心を落ち着かせて現状を把握

しようとした。

 

 

 拓磨の身体に刻まれた傷から、凶器は銃であることに間違いない。悠介が出発するま

でに銃声が聞こえてきたのは、つぐみが出発してから吉田葵(女子18番)が教室を出る

までのわずかな時間だ。その間に聞こえてきた銃声のどれかで、拓磨は命を落としたこと

になる。

 気がかりなのは、比較的早期に出発した後藤拓磨がなぜここにいるかということだが、

これは少し考えれば簡単に解決できた。

 ようするに彼は、このゲームに乗ったのだ。どんな理由があるのか知らないが、でなけ

れば一度出発した彼がこの場に戻ってくる理由が無い。

 以上の理由や憶測も含め、悠介は一つの結論を出した。

 ここを出発した後藤拓磨は何らかの理由でゲームに乗り、まだ校舎に残っているであろ

うクラスメイトを葬るためにこの場所まで戻ってきた。そして出てきた人物を殺害しようと

したが、自分の銃を奪われたか相手が銃を持っていたために返り討ちにあった。

 これが現時点で考えられる、最も高い可能性を持つ筋書きだ。もちろん悠介の憶測に

過ぎないが、こう考えていて損はないだろう。

 

 

 悠介は改めて辺りを見渡してみた。自分と拓磨の死体以外は何も無い。拓磨のデイパッ

クが見当たらないが、恐らく殺害者に取られたのだろう。

 周囲に気を配っていた悠介は、ここで不自然な事に気づいた。

 拓磨が倒れている場所の他にも、もう一つ血痕ができているのだ。

 彼の身体にできている外傷は額の一ヶ所だけ。他に傷もないし、それが致命傷だろう。

だからこそ離れた場所に血痕ができているのはおかしいし、普通に考えて有り得ないよう

ことなのだ。額を撃ち抜かれた人間が動いたなんて非科学的なこと、起こり得るわけがな

い。

 

 

 悠介はその、少し離れた場所にある血痕に近づいた。まだ乾ききっていないが、拓磨の

それより少し前に発生したものと思われる。

 再度辺りを眺めてみると、小さな水滴が点々と通りの先へ続いている。そしてその水滴

は、濃い赤色をしていた。

 間違いない。これは拓磨以外の誰かの血だ。彼の襲撃を受けながらも命を落とさなかっ

た誰かが、命からがら逃げ出した痕跡。

「まさか――」

 悠介の背筋に悪寒が走った。最初の銃声が聞こえてきたのは確か――。

「くそっ!」

 最悪のシナリオに顔を歪めながら、悠介は全力で走り始めた。

 

【残り36人】

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