試合終了後:1





 沙更島で行われたあのプログラムから、ちょうど一ヶ月が経とうとしていた。

 数日前に病院を退院していた浅川悠介は、新潟市内にある公園へふらりと向った。休日の

昼下がりということもあり、緑がたくさんある公園は家族連れなど多くの人たちで賑わいを見

せている。

 

 近くにあった自動販売機で缶コーヒーを買い、ベンチに座る。コーヒーを飲みながら、光に

包まれた公園をぼんやりと眺める。

 脳裏に浮かぶのは、入院中に何度か訪れてきた村崎薫のことだった。

 

 病院の食事しか食べていない悠介にお菓子を持ってきてくれたり、「退院したら返してね」

と言ってノートパソコンを貸してくれたり、病院での生活は彼女の世話になることが多かった。

 最初は険悪な態度を取っていた悠介だったが、村崎が訪れるたび彼女との仲は次第に親

しくなっていった。プログラムで冷酷な態度を見せていた彼女と今の彼女が同一人物だとは

とても思えなかった。

 何回目かの見舞いに訪れたとき、村崎は自分の秘密を悠介に打ち明けた。

 

「私もあんたと同じ、プログラムの優勝者なのよ」

 

 これには悠介も驚きを隠せなかった。それと同時に、村崎がプログラム終了後に自分に

言った言葉の意味がようやく理解できた。

 

 ――『私の根底は、あんたと同じ場所にある』

 

 あのときの言葉の意味は、こういうことだったのだ。

 彼女が自分に優しくしてくれる理由も、何となく分かった気がする。ただ彼女に言わせれば、

それだけが全てではないらしいが。

 

「あんた、私の知り合いに似てるのよ。だから放っておけないっていうか……どうしても面倒

見ようとしちゃうのよね」

 その知り合いと村崎との間に何があったのか悠介は知らない。聞いたら教えてくれるかも

しれないが、もしかしたら知られたくないことなのかもしれないと思い、未だに聞いてはいなか

った。

 

 それと同じくらい衝撃的だったのが、悠介の両親が政府に逆らい殺されていたということだ。

 悠介がそれを知ったのは、村崎がプログラム優勝者だと知った直後のことだった。村崎の

口からそれを聞いたときは信じられなかったが、退院後に自宅を訪れてみてようやくそれは

現実味を帯びることになる。

 

 約一ヶ月ぶりに帰ってきた自宅には誰もいなかった。玄関付近の床や壁に血でできた染み

が残っており、銃弾によって穿たれた穴もいくつか発見することができた。

 悲しみよりも「何で」という気持ちのほうが強かった。十二歳の誕生日を迎えたあの日から、

悠介と両親はお互いに口を利くどころかまともに顔を合わせようとすらしなかった。

 息子を愛していなかった両親と、父親を殴り飛ばした悠介。家庭から会話がなくなるのも当

然のことだった。

 

 そんな両親がなぜ政府に逆らってしまったのだろう。彼らにしてみれば自分なんていてもい

なくても同じなのだから、プログラムに選ばれたことを黙って受け入れてしまえばいいのに。

 いくら考えても答えが出てこなかった。悲しむが浮かぶどころか、訳の分からない行動の末

に死んでしまった両親に対しての苛立ちが生まれていた。

 悠介は村崎にその事について尋ねてみたら、村崎の口からこんな言葉が返ってきた。

 

「あんたがプログラムに選ばれたことを伝えると、凄く複雑そうな顔をしていたわ。私たちが何

を言っても「そんなもの承諾できるわけがありません」の一点張りで、ついには私たちに掴み

かかってきた。あの人たちの本意がどうなのかは分からないけど……やっぱりあんたのこと

を大事に思っていたんじゃない? でなければ政府に逆らうなんてできっこないもの」

 

 大事に思っていた。――あの二人が?

 そんなこと、あるはずがない。断定はできないが、それは限りなくゼロに近い可能性だ。

 悠介はそれに対して異論を立てたが、村崎は神妙そうな面持ちでこう言った。

 

「自分の子供が大切じゃない親なんて、いるはずがないわよ」

 村崎が口にしたその言葉は、なぜか悠介の胸に大きく響いた。

 両親が何であんな行動に移ったのか、悠介には分からない。

 村崎が言うように本当は自分のことを大切に思っていたのか、それともただ単に自分のこと

を傷つけてしまった罪悪感による行動だったのか、あるいはその両方だったのか。

 悠介は両親のことが嫌いだった。それは今も変わらないし、これからもずっと両親に対して

良い感情を抱くことはないだろう。

 

 ただ――墓参りぐらいは行ってやろうと思っている。嫌っているとは言っても自分を育てて

きてくれたのは父と母だし、死んでしまって誰も墓参りに来ないのではあまりに不憫だ。

 いつになるかは分からないが、両親の墓前に立ったときには「馬鹿野郎」と文句の一つでも

叩いてやろうと悠介は思っていた。

 

 悠介は飲み終えた缶コーヒーを近くにあった空き缶入れに捨て、腕時計に目を落とし公園

から立ち去って行く。

 今日は散歩をするために外へ出たのではない。公園に寄ったのは何となくで、本来の目的

は別にある。

 

 退院の前日、悠介はいつものように病室を訪れていた村崎と他愛もない世間話をしていた。

悠介の具合もプログラム終了後と比べ格段に良くなっており、腹や腕の包帯もほとんど取れ

ていた。腹部に受けた銃弾はそれほど臓器を傷つけていたわけではなかったので、悠介が

思っていたよりも大事には至らなかったらしい。もし当たり所が悪ければ、病院に運び込まれ

ても意識を取り戻すことはなかったかもしれないのだ。そう考えれば悠介は本当に運が良か

ったのかもしれない。

 病院での生活について村崎と話をしていたら、彼女は神妙な面持ちになって突然別の話し

を切り出してきた。

 

「ねえ、よかったら私と一緒に東京へ行ってみない?」

 唐突に、何の脈絡もなく彼女はそう言ってきた。驚くというより状況を理解しきれていない悠

介のために、村崎はその話を切り出した理由を一から説明し始めた。

「私がプログラム優勝者だっていうのは前に話したわよね。その私が何でプログラム担当官

なんてやっているのか……不思議に思ったりしなかった?」

 それは確かに疑問に思ったことだった。政府の手によって親しいクラスメイトを殺され、自身

も命の危機に晒されたというのに何故政府側に立ち、プログラムに大きく関わっている担当

官という職に就いているのか。悠介は「俺だったら絶対に担当官にはならないだろうな」と思っ

ていたので、村崎が何故プログラム担当官をしているのかは気になるところだった。

 

 ただ、彼女にそれを聞いたところで話してくれない可能性が高そうだし、別に物凄く気にな

るというわけではなかったのでそれほど深く疑問に思うことはなかった。

 

「私はクラスの皆が死んでしまった原因を作ったプログラムを、そしてこの国を許すことがで

きなかった。どうやったら皆の仇を討てるのか、プログラムをなくすことができるのか、この国

を変えることができるのかってずっと考えていたわ。死に物狂いで情報を集めて、自分にで

きることを精一杯やって……最終的に政府の関係者になるって結果に行き着いたのは、高

校二年生くらいのときかしらね」

「自分が総統になって、この国を内側から変えてやろうとしたってわけか」

 村崎は首を振った。

 

「最初はそう考えたけど……私の力じゃ総統は無理よ。何のコネもない一般人だった人間が

この国の頂点に立つってことはほとんど不可能だわ」

「じゃあ何で政府の人間を続けているんだ。総統になるのが無理だっていうなら、さっさと辞め

てしまえばいいじゃないか」

 目的の達成が不可能だと分かったのに敵地に残るなんて、悠介には到底理解できないこ

とだった。

「確かに私一人の力じゃこの国を変えることはできない。けどそれが一人ではなく、もっと大人

数だったら? 頂点に立つことが無理だとしても、その下に私のような人間が大勢いれば国

を変えることは可能なはずよ」

 

 自らが総統になって変革を起こすのではなく、その一つ下に位置する軍人や官僚など、政

府にとって必要不可欠なものたちから変革していこうという考えだった。それならば確かに力

のないものでも国を変える原動力になるし、まだ愛国者が多い政府事情で総統を目指すより

は幾分現実的な考えだ。

 

 しかし悠介は、村崎が言ったこの考えに大きな欠点があることに気づいていた。

「随分と着実な考えだな。確かにそれなら上手くいくかもしれないが……時間がかかりすぎる

んじゃないのか? 下手をしたら俺たちが生きているうちは間に合わない。徐々に変革を進

めていったとしても、途中で全てが水に泡になってしまうことだってある」

 村崎の考えは間違っているとは思えないし、総統を目指すよりは確実性が高く良い考えだ

とは思う。しかし反政府の考えを今の政府、そして国内に広めるためには長い時間が必要に

なるだろう。全員が全員、自分たちのように政府に恨みを抱いているわけではないのだ。この

国を愛している人間だって大勢いる。

 

「そうね……あんたの言う通りかもしれない。でも、何もしないよりはずっとマシよ。現状を憂い

て文句を言うだけで何もしないよりはね」

 一理あるな、と悠介は思った。納得がいかないのだったらそれを受け入れるのではなく、何

かしらの形で行動に移せばいい。それが良い結果に結びつかなかったとしても、自分の取っ

た行動がどこかで、誰かに影響を与えているかもしれないから。

「これが、私がプログラム担当官をやっている理由。そしてもう一つが、優勝者をプログラム

の悪夢から立ち直らせるため」

 

 村崎の話によると、優勝者の中にはプログラムで体験した恐怖などから心身に異常をきた

し、まともに社会生活を送れなくなってしまうものが少なくないそうだ。人間不信になったり、

毎晩プログラムの夢を見て不眠症になったり、罪の意識に苛まれて自ら命を絶ったりなど、

何の支障もなく日常に戻れるものは優勝者の半分にも満たないそうだ。

 

 プログラムが終わっても、優勝した生徒が完全な日常を取り戻すことはない。心に傷を負っ

たまま、これからの人生を歩んでいくことになる。

 

「私もプログラムが終わった直後はひどかったからね……本気で死のうかとも考えたわ。でも

それじゃ何の解決にもならないって気づいた。私はプログラムの苦しみを知っているから、自

分と同じことで苦しんでいる人の助けになれるんじゃないかって思ったの」

「……俺の面倒を見てくれたのもそれが理由か?」

「半分はね。本当はもっとずーんと沈んじゃってるかと思っていたんだけど、あんた思ったより

元気そうだし。もう半分は前も言ったとおり、あんたが知り合いに似てるから」

 正直なのはいいことだが、この時は何だか複雑な気持ちだった。

 

「で、それが東京に行くこととどう関係してくるんだ?」

「さっきも言ったと思うけど、私はどうにかしてこの国を変えたいと思っているわ。それには私

と同じ考えを持っている人間が必要なのよ」

「……つまり、あんたの力になれってことか」

 村崎は黙って頷いた。

 正直言ってあまり気乗りしない話である。村崎のことは嫌いではないし、プログラムに対して

の恨みも持っている。だが村崎について行くということは、政府の関係者になる可能性もある

ということだ。

 つぐみを奪った政府の人間と同じ位置に立つなんて、どんな理由があろうと絶対にやりたく

ないことである。

 

「政府の関係者でこの国のあり方、プログラムの存在に異論を持っている人たちは決して少

なくないわ。軍の中にも私の考えに賛同してくれている人がたくさんいる。望みが全く無いとい

うわけではないの。だから、プログラムの痛みを知っているあんたには私たちの力になってほ

しい」

 村崎はすっと手を差し出す。それが何を意味しているのかは明白だ。

「…………結論は、今じゃなきゃダメか?」

「考える時間が欲しいってこと?」

 この先の人生を左右しかねない重要な選択だ。この場所ですぐに答えを出せ、というのは

できれば遠慮願いたかった。

 

「――じゃあ、考えがまとまったら私の携帯に連絡を入れてちょうだい。あんたが転入する学

校の手続きも済ませないといけないから、なるべく早めに答えを出してね」

 その日の会話は、それで終わった。

 

 村崎について行って彼女の力になるか、それとも政府やプログラムのことは忘れ、新しい地

で新しい人生を歩むか。

 考え、結果を出すのは悠介自身だ。どちらを選んでも誰も責めることはない。自分にとって

本当に大事な方を、本当にやりたい方を選べばいい。

 村崎が帰ってから、悠介はずっとそのことについて考えていた。退院の準備を進めなくては

いけなかったのに、村崎が口にした選択肢のことしか考えられなかった。

 

 悠介は一日中――それこそ夜も眠らずに、ずっとそのことを考えていた。これからの自分の

人生、本当にやりたいこと、それらを全て考慮に入れ、自分が選ぶべき生き方を真剣に考え

ていた。

 

 将来の――この先のことについて考える。プログラムで犠牲になったクラスメイトたちにして

みれば贅沢な悩みだ。

 悠介は他の大勢の子供たちのように、明日のことを考えることができる。誰と遊ぼうとか、

どこに行こうかとか、明日に限らずその先に待ち受ける未来の計画も立てることができる。

 

 あの島で死んでいったクラスメイトたちには、もう縁のないことだ。彼らはあそこで死に、その

先の人生が絶たれてしまったのだから。

 朝日が顔を出したと同時に、悠介は自分なりの結論を出した。

 

 指定した待ち合わせの場所へ向う途中、悠介は花屋に寄って花束を買った。これは村崎に

プレゼントするためではない。これから向う場所にいる、彼女に渡すためのものだ。

 

 

 

 花束を片手に市街を歩くこと十数分、悠介は市内にある小さな霊園を訪れた。寺などにある

この国本来の墓場とは異なり、墓石は半ばまで地面に埋め込まれるような形になっている。

死者が眠る地にふさわしく、霊園は静謐な空気に包まれていた。

 足元に生えている小さな草の上を歩きながら、悠介は霊園の奥へと進んで行く。

 その途中、悠介は意外な人物に出会った。

 肩にかかるセミロングの髪は赤く染まっており、モデルのように整った肢体を包み込むもの

は赤いライダースーツ。赤いフレームの眼鏡から覗く視線は危険な魅力が漂っていた。

 全身赤尽くめの悪趣味なファッションを着こなす人物なんて、悠介の知る限りたった一人し

かいない。彼が通っていた喫茶店のマスター、琴乃宮赤音(ことのみや あかね)だ。

 

 彼女も自分に気づいたようで、「よっ」と気軽な挨拶をしてくる。

「悠ちん、誰かの墓参り?」

「墓参りと言うか……待ち合わせです」

「待ち合わせぇ? お前なー、普通霊園なんかを待ち合わせ場所に指定しねえだろ。どういう

感覚してんだよ、ったく」

 確かに傍から見ればおかしいかもしれない。しかし悠介には、この場所ではないといけない

理由があった。

 悠介はプログラムが終わってから、まだ一度も彼女の墓参りに行っていないのだ。

 

「赤音さんはどうしてここに?」

「あたし? あたしはー…………中学の頃の知り合いを偶然見かけたから、追っかけていろ

いろと世間話をね」

 赤音の顔に一瞬陰りが見えたのを、悠介は見逃さなかった。

 琴乃宮赤音との付き合いはそれほど長いわけではない。だいたいつぐみと同じぐらいだろ

う。ほぼ毎日学校で顔を合わせるつぐみとは違い、悠介が赤音の店に行くのは週に2、3回

くらいだ。だから彼女のことを完全に理解しているわけではないが、それでも赤音がどういう

人間なのかはそれなりに理解しているつもりである。

 

 赤音は明朗快活で豪快と、悠介のクラスメイトで言えば山田太郎に似た性格をしている。

だから悠介は赤音の悲しい顔などを見たことが滅多になかった。あったとすれば、それは自

分などが深入りしてはいけない問題であると感じ取っていた。

 

 ――そういえば、もう赤音さんと会えなくなるかもしれないんだな。

 プログラムに優勝した生徒は例外なく、他県の中学校に強制転校させられる。悠介もまた、

生まれ育ったこの街を離れなければいけないのだ。

 

「赤音さん、あの……」

「あんたさー、しばらく見ないだけだってのにいい顔するようになったじゃん」

「えっ?」

「前はなんか投げやりな感じがプンプンしたけど、今はちょっと違う感じだよ。メンドくせーけど

やってやるかって雰囲気。前みたいに諦めている感じはしないね。無愛想で素っ気ないのは

相変わらずだけどさ」

 赤音は眺めるような目で、悠介を上から下までじっくりと見た。

 

「あたしはどっちかってーと、今の悠ちんの方が好きだな」

「赤音さん……」

「あ、ちなみにこれは異性に対しての好きっていうわけじゃねえから勘違いすんじゃねーぞ。

悠ちんとあたしじゃさすがに年が離れすぎてるし」

「…………」

 可笑しそうにケラケラと笑いながら、赤音は悠介の肩をぽん、と叩く。

 

「そんじゃーな少年。あまり悩みすぎるとストレスで身体おかしくなるから気をつけるんだぞ」

 そう言って赤音は悠介の脇を通り、霊園の出口に向っていった。

「……結局最後まで悠ちんって呼びやがって」

 今度こそ訂正させようかと思ったのに、言い出すタイミングを逃してしまった。

 

 いい顔をするようになったと、彼女は言っていた。自分では気がつかなかったが……どうな

のだろう? 今では半分開き直っているような状態だが、それが外見に表れてしまったのか

もしれない。そうでなかったとしたら、ただ単に自分を励ましてくれたとか。

 結局最後まで、彼女にはいいように扱われてしまった。もし再び会うことができたら、その時

もまた今と変わらぬ会話を交わすことができるのだろうか。

 

 

 

 赤音と別れ、悠介は彼女がやってきた霊園の奥へと進んでいく。

 目的の場所、つぐみの墓はもうすぐそこだった。

 そして悠介は、目的の墓石の前で佇んでいる人物を見つけた。

 いつも着ている紫色の着物ではなくスーツ姿だったが、墓石の前に立っているのは村崎薫

に間違いなかった。村崎といったら着物姿、というイメージがあったので、ちゃんとしたスーツ

を着ている彼女を見るのは新鮮で、少しだけ違和感があった。

 

 村崎は悠介に気がついたらしく、こちらを向いて小さく手を振る。悠介も同じように手を振り、

そのまま彼女のもとへ近付いて行く。この待ち合わせ場所を指定したのは自分なのに、どうや

ら彼女の方が先に着いてしまったらしい。

 

「退院おめでとう。元気そうで安心したわ」

「元気かどうかは自分でもよく分からないけどな。でもまあ、落ち込んでいるわけじゃないよ」

 目の前にいる村崎はプログラムの担当官ということを一切感じさせていなかった。それだか

らかどうか分からないが、悠介は彼女に対して思っていたよりも気軽に話すことができた。

ここに来るまでは少し緊張していたが、今では自然体でいることができる。

「今日はいつもの服じゃないんだな」

「和服は好きなんだけど、さすがに毎日着ているってわけじゃないわよ。ちゃんと使い分けて

着ているんだから」

 

 村崎が可笑しそうに笑っている。プログラムの時の彼女の彼女からは考えられないような

表情だ。

 プログラムの担当官だとか、政府に対して復讐を誓っているとか言う前に、彼女もまた一人

の人間なのだ。笑いもすれば泣きもする。自分と同じように。

 

「……この前の質問の答え、考えてきたよ」

 さあっ、と風が吹き、悠介と村崎の髪を揺らしていく。

 つぐみが眠る墓の前で、悠介は自分なりの結論を出そうとしていた。

 

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